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大阪高等裁判所 平成2年(ネ)2471号 判決 1992年2月19日

控訴人 矢崎邦子

被控訴人 国

代理人 手﨑政人 木下俊一 ほか六名

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  控訴人と被控訴人間で、控訴人が大阪大学付属図書館事務補佐員たる地位を有することを確認する。

3  被控訴人は控訴人に対し、金二四三万一五九五円及びこれに対する昭和六〇年四月二日から支払済みまで年五分の割合による金員並びに同月以降毎月一七日限り金一三万〇一四五円を支払え。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

5  3項につき仮執行宣言

二  被控訴人

1  主文一、二項と同旨

2  担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

(地位確認等につき)

1 控訴人は、昭和四六年三月に大学を卒業し、中学校の教師等をした後、昭和五四年八月七日、大阪大学付属図書館中之島分館にアルバイトとして採用され、同年九月一日、時間雇用職員となり、同分館の事務補佐員として勤務を始めた。控訴人は、その後の昭和五六年五月一一日、日々雇用職員となり、勤務先も大阪大学付属図書館本館閲覧課に配置替えとなったところ、その際、控訴人が受領した人事異動通知書には「事務補佐員(大阪大学付属図書館閲覧課)に採用する。任期は一日とする。ただし、任命権者が別段の措置をしない限り昭和五七年三月三〇日まで任用を更新し以後更新しない。」旨記載されていた。また、勤務時間は月曜日から金曜日までは午前八時三〇分から午後五時まで、土曜日は午前八時三〇分から午後零時三〇分までであり、業務内容は、図書の貸出し・返却図書の受領、利用案内、統計処理等であった。

2 控訴人は、その後、昭和五七年四月一日と昭和五八年四月一日に前記と同一趣旨の記載のある人事異動通知書を受領したが、勤務形態に変更はないまま業務を継続していたところ、昭和五九年三月二二日、大阪大学付属図書館の今村慶之助事務部長は控訴人に対し、同年四月一日以降は任用しない旨を口頭で通告し、被控訴人は、同日以後控訴人を大阪大学付属図書館の職員として取り扱わない。

3 しかし、控訴人の期限付任用は許されず、したがって、控訴人は、任用期限の定めのない事務補佐員たる地位を有する。

(一) 定員外職員の歴史と現状

昭和二四年、公務員の定員を明確にして増員を抑制すべく、行政機関職員定員法が制定され、二か月以内の雇用予定期間を定めて日々雇用される者を除いて、常時勤務する者を全員常勤職員として定員に組み入れたが、右の日々雇用職員については、これを非常勤とし、勤務時間を一日八時間とした。このため、勤務形態上は常勤職員と非常勤職員との区別がなくなり、二か月の雇用予定期間の更新を継続することにより定員外の常勤的非常勤職員が存在することになった。そこで政府は、昭和三六年二月二八日の閣議決定「定員外職員の常勤化の防止について」により「日々雇用の非常勤職員の任用期間は会計年度の範囲内とし更新しない」旨を明示し、また、昭和三七年一月一九日の閣議決定「昭和三七年度の定員外職員の定員繰入れに伴う措置について」により、定員外職員の一部を定員化し、これにより定員化は完了したものとした。ところが、その後も定員外職員の増加が継続したため、政府は、昭和四四年に行政機関の職員の定員に関する法律を制定し、公務員の定員を抑制しようとした。しかし、日々雇用職員の常勤化については何の対策も講じられず、また、昭和三六年閣議決定の更新不可の方針が遵守されなかったため、長期にわたる日々雇用という実態が定着した。これに加え、昭和四三年に改正された人事院規則(以下「人規」という。)八―一二第七四条二項が日々雇用の更新を簡易化したため、右の傾向に拍車がかけられ、各官庁が多数の定員外職員(日々雇用職員等)を抱えるという現在の状況が生じたのである。

文部省では、昭和三六年閣議決定の趣旨に従い、各国立大学に対し、昭和三六年三月三一日付け文人任第五四号「非常勤職員の任用及びその他の取扱いについて」を出し、国立大学の日々雇用職員については、任用を続けてもその期間は最大限六か月であり、それを越えることは許されないことを明確にした。これに続き、昭和三七年閣議決定を受けて昭和三七年三月二七日付け文人任第四六号を各国立大学に発し、日々雇用職員は、季節的又は一時的に増加した業務を処理させるため必要がある場合に限り、臨時に採用するものとすること、業務量の増減がある場合には、これに見合う配置転換等の措置をとって対処し、日々雇用職員の採用はしないこと等を指示した。その後、昭和三六年文人任第五四号は、昭和四二年三月一八日付け文人任第五一号によって改正され、日々雇用職員の任用限度が六か月から一二か月に改められた。

(二) 国家公務員法(以下「国公法」という。)は、一般職の公務員につき、同法六〇条該当の場合を除き期限付任用を許容しておらず、したがって、大阪大学総長が控訴人を任用するにあたって付した期限の定めは無効である。

(三) 仮に、国公法六〇条に該当する場合以外にも例外的に期限付任用が許容されることがあるとしても、そのためには、期限付任用を必要とする特段の事由があり、かつ、国公法が定める職員の身分保障の趣旨に反しないとの要件を充足しなければならない。右特段の事由の有無の判断にあたっては、国公法六〇条の「緊急の場合」、「臨時の官職に関する場合」、「任用候補者名簿がない場合」などの趣旨が類推的に生かされなければならないし、任期についても、同条の「六月を超えない」「六月の期間でこれを更新することができるが、再度更新することはできない」などの規定が類推適用されなければならない。そうでなければ、職員を長期間中途半端な身分に置き続けることになり、職員の再就職の機会を奪うことになるなど、著しく職員の利益に反することになるし、職員に無用な期待を抱かせることにもなり、国公法が職員の身分を保障し、職員を安んじてその職務に専念させようとした趣旨に反することとなるからである。そして、右要件の存しないときには、任用するにあたって付された期限の定めは無効となる。

(1) 期限付任用を認めるべき特段の事由の不存在

<1> 控訴人は、昭和五四年八月七日から大阪大学付属図書館中之島分館運用掛でいわゆるアルバイト勤務を始めたのであるが、同年九月一日からは週三〇時間勤務の時間雇用職員として中之島分館運用掛の事務補佐員となった。昭和五六年四月一日には大阪大学付属図書館が外国医学文献の全国的センター館に指定されたため、中之島分館が大阪大学付属図書館医学情報課と名称変更され、同時に、控訴人は運用掛から目録掛に配置換えされた。

<2> 大阪大学付属図書館本館閲覧課では、出産休暇後職場に復帰する予定であった日々雇用職員の今井倶子が、昭和五六年四月に辞職の意向を伝えてきたため、大阪大学付属図書館の人事責任者であった砂本眞整理課長は、控訴人を今井の後任の日々雇用職員候補者とし、控訴人の直属上司であった医学情報課目録掛長茂幾周治に控訴人の意向聴取を依頼した。そこで茂幾掛長は、昭和五六年四月二二日朝、出勤してきた控訴人を医学情報課二階のスタッフルームに同行し、「本館閲覧第一掛の日々雇用職員である今井さんの籍が空いたから、あんたの将来のことを思うと本館へ行ったほうがいいと思う。本館の砂本課長からあんたを指名してきた。これからあんたの将来も安定するし、ずっと働いていけるんやから、本館へ行っていいやろ」と控訴人に本館の日々雇用職員になることを勧めた。控訴人はその場でこれを承諾し、同年五月一一日から本館閲覧課閲覧第一掛に週四四時間勤務の日々雇用職員として勤務を始めた。

<3> 控訴人が日々雇用職員として勤務を始めた当時、本館閲覧課閲覧第一掛は、掛長を含め定員内三名(津田恭司掛長、川口恵美子、石井道悦)、日々雇用職員一名(控訴人)、時間雇用職員二名(鈴木芳子、長森道代)という構成であり、同掛の業務としては、開架図書室及び書庫棟にある図書の貸出と返却、資料の所蔵調査、案内、盗難防止のための巡回、搬入図書の整理などがあり、図書館利用者のためのサービスのほとんどすべてを含む多岐にわたるものであった。そして、控訴人が日々雇用職員となってからの勤務時間は、一週合計四四時間であり、定員内職員の勤務時間と同一となった。また、控訴人は、定員内職員と同様に開館業務当番(早朝当番)に加わり、午前九時の開館準備を七週間のうち一週間担当し、開館後は時間雇用職員二名が出勤する午前一〇時まで掛長を除く定員内職員二名とともに夜間に返却された書籍の回収等に従事し、時間雇用職員出勤後は、掛長を除く全員が渾然一体となって前記業務に従事していた。

<4> 以上のとおり、控訴人は、大阪大学付属図書館の恒常的業務に従事していたものであり、その業務には一定の専門的知識、習熟、経験等を要するのであり、補助的、代替的業務ということはできず、控訴人は、大阪大学付属図書館の運営維持に不可欠の存在であった。したがって、控訴人については期限付任用を認めるべき特段の事由が存在しないものである。

(2) 身分保障の趣旨に反する。

<1> 控訴人の継続雇用の期待

控訴人は、日々雇用職員に採用される際、雇用期間が三年に限定されるという説明は受けておらず、かえって、控訴人の意向確認をした茂幾医学情報課目録掛長は、「あんたの将来も安定するし、ずっと働いていける」と説明した。そして、控訴人に対する任用は、昭和五九年三月三〇日時点では、時間雇用職員に採用されてから四年七か月、日々雇用職員に採用された時からでも二年一一か月を経ているのであって、期限付任用が許容される「せいぜい一二か月」という要件に反している。このように長期雇用されてきた上に、控訴人は長期継続勤務を希望していたのであるから、控訴人が継続雇用を期待していたことはいうまでもない。このような控訴人に対し、期限付任用であるとして雇用を拒否することは、他への再就職の機会が奪われるなどの重大な身分上の不利益を受ける結果となるのであり、国公法が公務員に付与した身分保障の趣旨に反するものである。

<2> 人事異動通知書等の形式について

控訴人は、日々雇用職員としての任用、退職の都度、異動内容を記載した人事異動通知書を交付され、退職金を受け取ってきた。しかし、人事異動通知書の交付は、昭和三六年閣議決定を潜脱するための形式を整えようとしたものにすぎなかった。このことは、大阪大学付属図書館の日々雇用職員については、建前上は人規に基づき労働基準法に準じて年次有給休暇が与えられることになっていたが、実際の取扱いとしては、定員内職員とまったく同様に一律に年二〇日の年次有給休暇が与えられており、控訴人も日々雇用職員に任用された時点で、無条件に年二〇日の年次有給休暇が与えられたこと、日々雇用職員については、年金は厚生年金保険が、健康保険は政府管掌保険がそれぞれ適用されていたが、ここでは、人事異動通知書の上で設けられていた毎年三月三一日の空白期間(三月三〇日に退職し、翌々日の四月一日に任用される)は存在しないものとして、すなわち、雇用は継続しているものとして取り扱われており、現実にも日々雇用職員は三月三一日も出勤して勤務し、当日の賃金は後に超過勤務手当等として支払われ、この点は控訴人も同様であったこと、日々雇用職員は、定員内職員と同様に残業が命ぜられることがあり、産休の取得も認められていたこと、また、大阪大学付属図書館では日々雇用職員にも定員内職員と同一様式の身分証明書を発行し、これを携帯させていたこと等から明らかである。

4 期限の定めのない任用への転化

(一) 大阪大学付属図書館の日々雇用職員については、原則として、同図書館の時間雇用職員の中から、経歴が長く、かつ、能力のある職員を任用する取扱いとなっており、控訴人についても、日々雇用職員として配置換えされる以前に時間雇用職員として勤務しており、大阪大学当局は、控訴人の勤務実績を考慮して日々雇用職員としたものである。したがって、控訴人については、国公法三六条一項(人規八―一二第四四条)に定める「能力の実証」が実質的に行われていたといえる。

(二) 控訴人は、昭和五四年九月一日、時間雇用職員に採用され、昭和五六年五月一一日に日々雇用職員に配置換えされて、昭和五九年三月まで反復して任用を更新されてきたのであり、控訴人の採用経過及びその従事していた業務内容を併せ考えると、控訴人の期限付任用は、大阪大学付属図書館の期限の定めなき事務補佐員(日々雇用職員)としての任用に転化したものと解することができ、大阪大学総長が昭和五九年四月一日以降の任用を更新しなかったことは、解雇の意思表示と解され、解雇に関する法理が適用されるべきである。しかし、控訴人には解雇されるべき事由はまったくない。被控訴人は、期限付任用を反復継続しても、国公法上の任期の定めのない任用に転化することはないと主張しているが、控訴人は、給与その他の勤務条件や身分そのものにつき、定員内職員のそれと同一内容に転化すると主張しているわけではなく、任用更新の反復という事実によって、日々雇用職員としての地位それ自体が実質上は任期の定めのない任用として継続することになると主張しているのである。

5 解雇法理の類推適用

控訴人の任用が期限の定めなき任用に転化したとはいえないとしても、控訴人は任用継続を期待し、大阪大学当局も控訴人を期限付で任用するにあたっては、期限の定めなく継続的に雇用する意思であったのであり、現実に任用が反復更新されてきたのであるから、昭和五九年四月一日以降任用を更新しなかったことの当否を判断するについては、解雇に関する法理を類推適用すべきである。そして、控訴人に解雇事由が存在しないことは先に述べたとおりである。

6 控訴人は、昭和五八年四月一日から昭和五九年三月三一日までの間、一か月平均二二・一六日就労したところ、昭和五九年四月一日以降の控訴人の日額賃金は金五八七三円であるから、月額賃金は金一三万〇一四五円となる。よって、昭和五九年四月一日から昭和六〇年二月二八日までの一一か月分の賃金合計は金一四三万一五九五円となる。また、控訴人は、先月分賃金を翌月一七日限り支払を受けていたから、被控訴人は控訴人に対し、昭和六〇年四月以降も毎月一七日限り金一三万〇一四五円の賃金支払をする義務がある。

(不法行為に基づく損害賠償につき)

7 不法行為

(一) 期待権の侵害

控訴人は、大阪大学付属図書館において期限の定めなく継続雇用されるものと信じて、時間雇用職員及び日々雇用職員に採用されたものであり、右各採用の際の大阪大学当局の対応も控訴人に右の期待を抱かせるものであった。その後、控訴人は、継続雇用されることを信じて、専門的知識、習熟、経験を要する大阪大学付属図書館の恒常的業務につき、真摯に職務に専念してきた。また、人事異動通知書のうえでは毎年三月三一日に雇用が中断していることについては、形式的なものにすぎず、年次有給休暇の付与の事実、厚生年金保険や健康保険の取扱い、現実には三月三一日にも勤務しその賃金も支給されていたこと等の客観的事情に照らすと、控訴人が継続雇用されると期待するのはもっともであったといえるのである。他方、控訴人に担当させるべき業務がなくなったとか、予算がつかなくなったという事実はなく、また、控訴人自身に解雇に相当するような事情があったわけでもない。時間雇用職員は実質的には期限の定めなく勤務しており、相当数の日々雇用職員が現在も継続雇用されている。しかるに、大阪大学当局は、文部省が昭和五五年五月一六日付け文人任第一〇九号により非常勤職員の雇用について厳正な取扱いを図るよう指示したことを受け、大阪大学では右通知の趣旨に従い、昭和五五年七月二三日に開催された全学事務長会議において、日々雇用職員につき任用更新期限を三年とする旨の申合せをしたとして、控訴人について昭和五九年四月一日以降の任用更新をしないものである。なお、大阪大学総長は、控訴人の後任として後藤みどりを新規に採用している。

以上の事実経過からすれば、大阪大学当局の控訴人に対する対応は、控訴人が継続雇用を期待したことにつき責任があり、また、控訴人に対する取扱いは、差別的であり裁量権を著しく逸脱したものである。

(二) 就労阻止の不当

控訴人の任用更新問題に関し、大阪大学教職員組合は、大学当局の不当な対応に対する抗議行動を行い、控訴人は大学当局に対し、組合活動の一環として昭和五九年四月二日以降も従来どおり就労する旨を通告した上、就労を請求して現実に出勤して業務に従事した。これに対し、大阪大学当局は、控訴人の正当な組合活動を嫌忌し、雨森弘行整理課長らが中心となって控訴人に対し、衆人環視の中で、当初は口頭で、控訴人の職場ではないから荷物をまとめて出てゆくよう執拗に要求し、同年四月一二日からは連日同旨を記載した書面を突きつけ、控訴人の正当な組合活動である就労闘争を妨げた。そのため、控訴人は同年六月九日をもって就労闘争を抗議行動に変えざるを得なくなった。大阪大学当局の控訴人に対する右対応は、正当な組合活動の一環としての就労闘争を妨げ、かつ、公衆の面前で控訴人に著しい屈辱感を与えたもので、違法である。

8 損害

控訴人は、愛着のあった仕事と職場におけるあたたかい人間関係を奪われ、肩身の狭い思いをしながら両親や妹の世話を受けなければならなくなったもので、控訴人が受けた精神的苦痛は大きく、その金銭的評価は一〇〇万円を下らない。

(結論)

よって、控訴人は被控訴人に対し、控訴人が大阪大学付属図書館事務補佐員たる地位にあることの確認を求め、かつ、昭和五九年四月分から昭和六〇年二月分まで一一か月分の賃金合計金一四三万一五九五円と不法行為に基づく損害賠償金一〇〇万円及び右合計金二四三万一五九五円に対する弁済期後であり本件訴状送達の日の翌日である昭和六〇年四月二日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金並びに昭和六〇年四月以降毎月一七日限り金一三万〇一四五円の給与の支払を求める。

二  請求原因に対する認否と反論

1  請求原因1及び2記載の事実は認める。ただし、控訴人は、昭和五六年五月一一日に大阪大学付属図書館本館閲覧課に配置換えになったのではなく、大阪大学総長が、同日、日々雇用職員として採用したものである。

2  同3(一)記載の事実は認める。

3  同3(二)記載の主張は争う。

国公法は一般職公務員の期限付任用を同法六〇条所定の場合に限定していない。国公法附則一三条は日々雇用の非常勤職員のあることを前提とした規定であり、人規八―一四第一条、同八―一二第七四条一項三号、同条二項の各規定もこのような任用形態を予定したものである。

4  同3(三)記載の主張は争う。

控訴人の閲覧第一掛における業務は、図書の貸出し、返却図書の受領、図書の配架・整頓、カウンターでの利用案内等であるが、これらはいずれも上司である掛長等の指示のもとになされる補助的なもので、その遂行には特別の習熟、知識、技能又は経験を必要とするものではなく、代替性の強い簡易な業務である。したがって、控訴人を日々雇用職員に任用したことは、それを必要とする特段の事由があったということができる。なお、カウンターでの利用案内については、この業務は夜間は学生アルバイトが行っており、それで対応可能な程度のもので、特別の知識・経験を要するものではない。

控訴人は、日々雇用職員に採用されるに際して任用期間が三年に限定される旨の説明を受けていなかったと主張している。しかし、控訴人を日々雇用職員に任用するにあたっては大阪大学付属図書館の担当者が控訴人に対し、三年を越えては採用しない旨を伝えており、当時、控訴人もその組合員であった大阪大学教職員組合は、昭和五五年七月二三日に開催された大阪大学全学事務長会議において日々雇用職員の任用更新期限を三年とする申合せをしたことに反対していたこと等からすると、控訴人も任用当初から更新期限が三年であることを知り得ていたものである。仮に、控訴人に対して右説明がされていなかったとしても、公務員の任用関係の内容は人事異動通知書の記載によって定まるものであり、任用期間を一年に限定するとの内容の人事異動通知書が控訴人に交付されている本件においては、昭和五九年四月以降任用しないことが許されなくなるわけではない。また、控訴人は期限の定めが無効であると主張しているが、公務員の任用行為は行政処分であるから、その内容は任命権者の明示の意思表示により決定されるべきものであるところ、控訴人が主張するところは任命権者の意思に反することが明らかであり、本件においてこのような考え方は採り得ない。

5  同4及び5記載の主張は争う。

大阪大学付属図書館の日々雇用職員も一般職の国家公務員であり、その勤務関係の根幹をなす任用、分限、服務等については、国公法及びそれに基づく人規が適用されるから、その勤務関係は公法的規律に服する公法上の関係であり、国と職員間に私法上の雇用契約の成立を認める余地はない。また、任期の定めのない一般職の国家公務員の任用については、必ず成績主義に基づく競争試験又は選考によるべきものとされており(国公法三三条、三六条)、その適用のない非常勤職員(人規八―一四第一条)とはその任用形態を異にしている。したがって、競争試験又は選考によらないで採用された控訴人につき、任用更新が継続されたとしても、任期の定めのない任用に転化することはあり得ない。

6  同6記載の事実は否認する。

控訴人の昭和五八年四月一日から昭和五九年三月三〇日までの一か月の平均勤務日数は、二二・一二五日であり、昭和五九年三月三〇日現在の日給は五六七六円であって、前月分を翌月一七日に支給していた。

7  同7記載の主張は争う。

期限付任用公務員の任用更新の反復と任用期限到来の法的効果については「期限付任用が反復更新されても期間の定めのない任用に転化するものではなく、期限付任用職員は任用期間満了により当然退職する」旨の判例理論が確立しており(最判昭和六二年六月一八日第一小法廷・労働判例五〇四号一六頁)、任用更新の期待権なるものが生ずるいわれはまったくない。右のような期待は主観的予測ないしは希望であって、法的に保護された権利とはいい得ない。

第三証拠<略>

理由

一  請求原因1及び2の事実のうち、控訴人が昭和五六年五月一一日に大阪大学付属図書館本館閲覧課に「配置替え」となったとの点を除き、その余は当事者間に争いがなく、<証拠略>によれば、次のとおり認めることができる。

1  控訴人は昭和四六年三月に大学を卒業し、中学校の教師等をした後、昭和五四年八月七日に大阪大学付属図書館中之島分館でいわゆるアルバイト勤務を始め、同年九月一日、大阪大学総長により任期を昭和五五年三月三〇日までとする時間雇用職員に採用されて同分館の事務補佐員となった。控訴人はその後、昭和五五年四月一日(任期は昭和五六年三月三〇日)と昭和五六年四月一日(任期は昭和五七年三月三〇日)の二度、時間雇用職員として採用された後、昭和五六年五月一一日に任期を一日とする日々雇用職員(ただし、昭和五七年三月三〇日まで任用を日々更新する)に採用され、大阪大学付属図書館本館閲覧課の事務補佐員となったところ、その際、控訴人に交付された人事異動通知書には「事務補佐員(大阪大学付属図書館閲覧課)に採用する。任期は一日とする。ただし任命権者が別段の措置をしない限り昭和五七年三月三〇日まで任用を日々更新し以後更新しない」と記載されていた。

2  控訴人は、昭和五七年四月一日と昭和五八年四月一日の二回大阪大学総長により日々雇用職員に採用され、その都度右同趣旨の人事異動通知書を交付され、これを受領するとともに、昭和五七年三月三一日付けの「昭和五七年三月三〇日限り退職した」との記載のある人事異動通知書と昭和五八年三月三一日付けの「昭和五八年三月三〇日限り退職した」と記載された人事異動通知書をそれぞれそのころ交付されてこれを受領し、また、退職手当として、昭和五七年三月三一日ころに金三万五六四〇円を、昭和五八年三月三一日ころに右同額をそれぞれ受領した。

3  昭和五八年四月一日付けでされた控訴人の日々雇用職員としての更新予定期間は昭和五九年三月三〇日までであったところ、任命権者である大阪大学総長は、控訴人を新たに任用しなかった。

二  控訴人の任用

国公法は、職員の採用は競争試験又は選考(競争試験以外の能力の実証に基づく試験)によらなければならない旨(三三条、三六条)及び一般職職員につき、その職務と責任が特殊性を有する場合には法律又は人規で国公法の特例を定めることができること(附則一三条)を定めている。これを受けて人規八―一四(非常勤職員等の任用に関する特例)は、非常勤職員の採用は競争試験又は選考のいずれにもよらないで行うことができる旨を定めている。また、人規八―一二第七四条一項三号、二項は、任期を一日とし日々雇い入れられる職員の存在を肯定している。そして、先に一において認定した事実及び弁論の全趣旨によれば、控訴人が昭和五六年五月一一日に日々雇用職員として採用されるについては競争試験及び選考のいずれも経ていないことが明らかである。したがって、控訴人は、任命権者である大阪大学総長(昭和三二年七月二二日文部省訓令「人事に関する権限の委任等に関する規程」三条参照)により、日々雇用の非常勤職員として採用されたこととなる。

ところで、控訴人は、大阪大学総長は、控訴人の時間雇用職員(人規一五―一二第二条後段に定める非常勤職員である。もっとも控訴人が時間雇用職員となった昭和五四年九月一日当時は同規則一五―四第一条後段の規定による。)としての勤務実績を考慮して日々雇用職員としたのであるから、国公法三六条一項に定める「能力の実証」が実質的に行われている旨主張する。

しかし、<証拠略>によれば、控訴人の日々雇用職員採用については、その一年八か月余の時間雇用職員としての勤務実績も参考とされたが、右の実績考慮は、控訴人を昭和五六年五月一一日から昭和五七年三月三〇日までの間任用を更新する日々雇用職員として採用するかどうかの観点からなされたものであって、控訴人を常勤職員あるいは任用期限の定めのない非常勤職員として採用するかどうかの見地から行われたものではなかったことが認められる。したがって、控訴人が能力の実証に基づく試験により日々雇用職員に採用されたとするに足りないものである。

三  控訴人の職務の性質・内容と日々雇用職員として任用されるに至った事情

<証拠略>によれば、次のとおり認めることができる。

1  控訴人は、前述のとおり、昭和五四年九月一日、大阪大学付属図書館中之島分館の時間雇用職員に採用されて運用掛に配属され、一階のカウンターで図書の貸出し、返却図書の受領、複写サービス及び図書相談を主とする業務に従事していた。

その後控訴人は、昭和五六年四月一日から中之島分館の目録掛において医学関係の雑誌の受入れ、分類業務に従事するようになった。

2  そしてその後間もなくの昭和五六年四月半ばころには、直属の上司である目録掛長の茂幾周治から控訴人に対して大阪大学付属図書館本館閲覧第一掛の日々雇用職員となる意思はないかとの意向打診があり、日々雇用職員は時間雇用職員よりも給与その他の勤務条件が良かったことから、控訴人はこれを承諾した。

3  右の茂幾掛長が控訴人の意向打診をした昭和五六年当時、大阪大学付属図書館に勤務する職員間では、日々雇用職員は時間雇用職員よりも勤務条件が良く、一段上に格付けされる地位であるとの認識が一般であり、茂幾掛長も控訴人も同様に考えていた。

4  茂幾掛長が控訴人の意向打診をする以前の昭和五五年七月二三日には、後に認定するとおり、大阪大学全学事務長会議で、日々雇用職員の任用更新期間は最大限三年とする旨の申合せがなされていたが、茂幾掛長は右の申合せを知らず、したがって、控訴人に対しても任用更新期間は最大限三年である旨の告知はしていない。

5  控訴人が日々雇用職員に任用されることになったのは、大阪大学付属図書館本館閲覧課の日々雇用職員の一人が自己都合で任用更新されなくなったためであり、同課の事務量の増加その他の一時的事情によるものではない。

6  控訴人は、昭和五六年五月一一日に大阪大学総長によって大阪大学付属図書館の日々雇用職員に任用され、大阪大学付属図書館本館閲覧課閲覧第一掛勤務となった。当時の閲覧第一掛の人員構成は、掛長を含めて常勤の定員内職員(行政機関の職員の定員に関する法律に基づいて定められた定員に含まれる職員で国公法に定める手続を経て任用されたもの)は三名(掛長・津田恭司、係員・川口恵美子、石井道悦)、定員外の日々雇用職員等は、控訴人を含めて三名(控訴人、鈴木芳子〔時間雇用職員〕、長森道代〔同〕)であった。そして、閲覧第一掛での控訴人の業務は、利用者に接するカウンター業務であり、その内容は、図書の貸出し、返却図書の受領、返却図書の配架、利用者のための調査相談、入力漏れ図書・雑誌のコンピュータ入力作業等であったが、主たるものは、図書の貸出し、返却図書の受領であった。そして、掛長は管理業務のほか他の大学からの見学者の案内等に従事しており、カウンター業務にはほとんど関与していなかったところ、昭和五六年末ころからは、石井道悦が付属図書館のコンピュータ化のための作業に従事したため、そのころからは、利用者に直接接するカウンター業務は、定員内職員である川口恵美子、定員外職員である控訴人、鈴木芳子、長森道代の四名で行われていた。

7  昭和五六年当時、閲覧課閲覧第一掛に属する業務については各事項毎に手引書があり、新職員には定員内、定員外の区別なく配付されており、控訴人も交付を受けた。

以上のとおり認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。そして、右事実によれば、控訴人が日々雇用職員として従事した業務内容は、単純な肉体的労務ということはできないけれども、手引書に従い、時に先輩の助言を受けるならば容易に習熟できる程度のものであり、その遂行に専門的知識や経験を必要としない代替性の強い種類のものであるということができる。したがって、このような性質の業務に従事する控訴人を日々雇用の形態で任用したとしても、国公法の定める公務員の身分保障の趣旨に反するとはいえず、また、公務の能率的運用を阻害する等国公法の趣旨に反するともいえない。要するに、控訴人を日々雇用職員として任用したことを違法ということはできない。この点について控訴人は、閲覧第一掛における業務は専門的知識・経験を要する旨主張し、原審における控訴人本人尋問の結果中には、控訴人は、図書・資料の検索相談等、専門的知識を要する業務を行っていたとの部分がある。しかし、<証拠略>によれば、大阪大学付属図書館本館閲覧課には右のような業務を主たる職務内容とする参考掛が独立の掛として存在しており、控訴人が所属していた閲覧第一掛における利用者のための調査相談は、カウンター業務に付随する補助的なものであったと認められるから、控訴人の右主張及びこれに沿う控訴人本人の供述は採用しない。

四  控訴人の期限付任用が許されない場合、その任用は期限の定めのないものとなるか

控訴人は、国公法上、控訴人を期限付で任用することは許されないから、大阪大学総長が控訴人を任用するにあたって付した期限の定めは効力を持たず、その任用は期限の定めのないものとなると主張する。

しかし、任命権者によって日々雇用の非常勤国家公務員として任用された職員につき、その任用を期限の定めのない非常勤国家公務員の任用とする余地はない。なぜなら、国家公務員の任用は、私法上の雇用契約とは異なる公法的規制に服する法律関係であり、その任用方法、服務規律、定員等につき国公法、一般職の職員の給与等に関する法律、行政機関の職員の定員に関する法律、人規八―一二、同一五―一二(ただし、昭和五六年当時は人規一五―四)等により厳格に規制されており、能力の実証に基づいて任用されたわけではない控訴人につき常勤職員としての地位を与えることは許されず、また、右各法律等の規定からすれば、国公法は、任期の定めのない非常勤職員(能力の実証に基づかないで任用された任期の定めのない職員)の存在はこれを許容していないものと解されるからである。したがって、控訴人の期限付任用が許されるか否かについて検討するまでもなく、請求原因3記載の主張はいずれも理由がない。

五  任用更新の継続により期限の定めのない任用に転化したか

控訴人が、昭和五六年五月一一日に日々雇用職員に採用されて以後、昭和五七年三月三一日と昭和五八年三月三一日の任用中断期日をはさんで昭和五九年三月三〇日まで任用されたことは先に述べたとおりであるが、右に認定のとおり、控訴人は、昭和五六年五月一一日の任用開始時に「任期は一日とする。ただし任命権者が別段の措置をしない限り昭和五七年三月三〇日まで任用を日々更新し以後更新しない」と記載された人事異動通知書を受け取り、任用予定期限経過のころに、昭和五七年三月三一日付けで「昭和五七年三月三〇日限り退職した」と記載された人事異動通知書の交付を受けてこれを受領し、以後同様の人事異動通知書の交付を受けてこれを受領しながら昭和五九年三月三〇日にまで至ったものである。そして、前示のとおり、国家公務員の勤務関係は公法上の関係であって、その任用については国公法、人規その他の公法的規制下にあり、日々雇用職員としての任用の更新が継続されたことを理由として、控訴人の日々雇用職員としての任用が期限の定めのない非常勤職員としての任用に転化することを認めることは、結局、任用の要件、手続、効果等について、それぞれ法律によって定めている右国公法等の規定の趣旨を潜脱する結果となるから、許されないものと解するのが相当である。控訴人は、この点について、大阪大学総長が控訴人を日々雇用職員に採用するについては国公法三六条一項に定める「能力の実証」が実質的に行われていた旨主張するが、その理由のないことは前述のとおりである。

六  解雇法理が類推適用されるべきか

控訴人は、大阪大学総長が控訴人の任用を更新しなかったことの当否を判断するについては、解雇に関する法理を類推適用すべきであると主張する。

しかし、公法的規制を受ける国家公務員の任用関係の性質からすると、日々雇用の一般職国家公務員の地位は、任用期間の満了により当然に消滅するものというほかなく、したがって、期間が満了した非常勤職員を再度採用するかどうかは任命権者の自由裁量に属し、解雇に関する法理を類推適用すべき余地はないものと解するのが相当である。よって、控訴人の請求原因5記載の主張も理由がない。

七  不法行為の成否について

控訴人は、任用継続の期待権の侵害を受け、また、大阪大学当局が控訴人の就労を違法に阻止したとして損害賠償の請求をしているので、この点について検討する。

前述したとおりの国家公務員の期限付任用の性質からすると、控訴人の任用更新の期待は、事実上のものにとどまり、この期待に反して任用が更新されなかったからといって、直ちに期待権が違法に侵害されたものとは解されない。もっとも、採用時の事情や任用を更新しなかった時点における具体的事情からして、日々雇用職員の任用が更新されなかったことにつき、それが全体的観点からして違法と評価され、その結果不法行為の成立をみることがあるとの見地もあり得ようから、以下右の見地に立って本件を検討しておくこととする。

1  控訴人が日々雇用職員に任用されるまでの経緯は先に認定したとおりである。被控訴人は、控訴人を日々雇用職員として任用するに際し、控訴人に対して、任用期間は最大限三年であり、それ以後は任用されない旨を告知したと主張し、証人砂本眞は右主張に沿う供述をしている。しかしながら、控訴人を日々雇用職員として任用するにつき、その意向聴取を行った控訴人の直属の上司である茂幾周治中之島分館目録掛長は、期間制限を控訴人に伝えていないこと及び同掛長は、その当時、日々雇用職員について最長三年との期間制限があると認識していなかったことは先に認定したとおりである。また、<証拠略>によれば、大阪大学付属図書館長は、昭和五七年三月における非常勤職員の任用期限に関する大阪大学教職員組合との交渉の席上、三年を限度とする申合せがあるから同一部署での任用の更新はできないが、大阪大学の他の部署で任用する方向で考えているとの趣旨の発言をしていること、大阪大学では、時間雇用職員については、昭和五六年当時以降現在に至るまで任用期間の制限が問題となったことはなく、昭和五四年に時間雇用職員に任用された者の中には現在も時間雇用職員として勤務している者もいること、控訴人は昭和五六年五月当時、三年経過後の具体的生活設計を有していなかったことがいずれも認められる。これらの事実に照らすと証人砂本眞の右供述は採用できない。他には控訴人を日々雇用職員に任用するにあたって任用期限は三年であることが大阪大学当局から控訴人に少なくとも明確に告知されていたことを認めるに足りる証拠はない。しかしながら、他方、控訴人を日々雇用職員に任用するに際し、任用事務担当者その他の大阪大学当局者が、控訴人に対し、人事異動通知書の記載にもかかわらず任用は無期限に継続される旨を告知したものと認めるに足りる証拠もない。

2  定員外職員問題の歴史的経緯

この点については請求原因3(一)に記載のとおりであって、この事実は当事者間に争いがない。

3  大阪大学付属図書館における定員外職員問題

右のように、従来、国は非常勤職員の常勤職員化を抑制するよう努めてきた。ところで、<証拠略>によれば、文部省においては、昭和五五年五月一六日付け文部省大臣官房人事課長から国立大学学長等にあてた「非常勤職員の給与等の取扱いについて」と題する通知によって、非常勤職員の給与を合理的なものに改めるとともに、日々雇用職員の長期任用を防止するよう指導を行い、これを受けて、大阪大学では昭和五五年七月二三日に開催された事務長会議において、日々雇用職員の任用期間の限度を三年とする旨の申合せがなされたこと、他の主要国立大学においてもほぼ同時期に最長任用期間を二年又は三年とする旨定めたこと、これに対し、大阪大学教職員組合では、右の期間制限に反対し、これを撤廃するよう要求していたことがいずれも認められる。

4  任用更新に関する控訴人と大阪大学当局との交渉経過

<証拠略>によれば、控訴人は、昭和五七年末ころ、理学部図書館に勤務している日々雇用職員から、前記事務長会議の申合せにより任用更新されないとの話を聞き、このとき初めて大阪大学では日々雇用職員の任用期限が三年に限定されていることを知ったこと、右日々雇用職員は、昭和五八年四月一日に大阪大学当局の斡旋で国立民族学博物館の日々雇用職員として任用されたこと、大阪大学当局は控訴人に対し、遅くとも昭和五八年九月末ころには昭和五九年三月三〇日以降任用を更新しない旨を告げるとともに就職先の斡旋等を行ったが、両者の合意に至らないうちに、控訴人の任用予定期限が到来してしまったことがいずれも認められる。

右に認定した事実及び前記一ないし三において認定した事実からすれば、大阪大学当局者は控訴人を日々雇用職員に任用するにあたり、控訴人に対して任用期間は最大三年であることを明確に示してはいなかったけれども、他方また無期限に更新されるとも告知していなかったものであり、当局から控訴人に毎年交付されていた人事異動通知書には任用予定期限は三月三〇日であり、以後更新しない旨が明示され、同時にまた、控訴人は、毎年三月三一日付けの「三月三〇日限り退職した」と記載された人事異動通知書の交付を受けてこれを受領し、その都度退職手当ても受領していたのであるから、控訴人は、その学歴・職歴に照らし、平常から自己の法律上の身分がおよそどのようなものであるかを認識し、理解することが十分可能な状況にあったものとみられること、大阪大学当局は、控訴人に対し、任用予定期限の約六か月以前に任用を更新しない旨を告知し、就職斡旋の申し出も行っていること、日々雇用職員等の非常勤職員は国公法上例外的に認められるべき職員であり、その勤務の長期化はできる限り防止するのが国公法の趣旨に沿うものであること等の諸事情からすると、大阪大学当局が控訴人を昭和五九年三月三〇日以降任用更新しなかったことについて、これを違法な処置であるということはできない。したがって、控訴人において継続任用を期待していたとしても、当局において右の期待を満たさなかったことをもって、控訴人主張のようにその期待権なるものが当局によって侵害されたものとはいえず、控訴人の請求原因7(一)の主張は採用できない。

また、控訴人は、大阪大学当局者は控訴人の就労を違法に阻止したとも主張する。

しかし、先に述べたとおり、控訴人は昭和五九年三月三〇日以後においては公務員たる身分を有しないのであるから、大阪大学当局者が控訴人の就労を拒否するのは当然のことであるところ、拒否の手段・態様につきこれを違法と評価すべき事実関係の存したことを認めるに足りる証拠もないから、控訴人の請求原因7(二)の主張も採用できない。よって、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の損害賠償請求は理由がない。

八  結論

以上のとおりであり、控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく、原判決は結局相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 仙田富士夫 前川鉄郎 加藤誠)

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